根拠なき熱狂    Robert J. Shiller著(読書会)

植草一秀監訳  ダイヤモンド社 2001 

平成13428日(古野:報告)

第1章           株価の歴史

1871-2000のレビュー。

P6 株価収益率(実質SP複合株価指数・CPI調整後/同企業収益の過去10年移動平均)で見ると2000年を除き3つのピーク。190120世紀御祝儀ピーク」、19291966「ケネディ/ジョンソン・ピーク」。また、株価収益率とその後10年の実質利回りをプロットしてみるとほぼ反比例関係にあり、株価が低い時機に投資を行うべき事を示す。何故株が高いのか、合理的なものか?、「根拠なき熱狂」なのか?。

1部 株式市場を動かす構造的要因

第2章           高騰を促進した12の要因

此処では、経済のファンダメンタルズに対する合理的な分析では正当化されないものを挙げる。

@企業収益の成長に重なったインターネットの到来・・大衆の抱いた「印象」が重要

A勝利至上主義と経済的ライバルの衰退・・謙虚な気持ちで慢性的な問題を論じる気風の退潮

Bビジネス的成功を尊重する文化・・連帯や忠誠から個人的成功を重視する倫理へ

C共和党優位の議会とキャピタルゲイン減税・・可能性が見えれば株価にプラスに作用

Dベビーブーマーが市場に与えたとされる影響・・貯蓄としての株式投資、消費。但し通念先行

Eメディアによるビジネス関連ニュースの充実・・株式への需要増大へ

F楽観色強めるアナリストの予測・・水増し方向での歪み

G確定拠出型年金プランの拡大・・長期志向の考え方は株価水準を押し上げる

Hミューチュアルファンドの成長・・素朴な投資家の流入、投機的な値動きを助長

Iインフレ抑制とマネー幻想の効果・・インフレ率(名目金利)の低下は大衆の自信、株価高騰に繋がる

J取引量の拡大:ディスカウント証券会社、デイトレーダー、24時間取引の出現・・変動はより激しく

Kギャンブル機会の増大・・証券へ

要は、株式市場での価格決定に関しては、厳密な科学など何も無い。

第3章           熱狂の増幅メカニズム―自然発生したポンジー詐欺

P50 増幅メカニズムは、一種のフィードバック・ループを通じて作用する。

P51 1999年現在、投資対象として株式が最も優れる(1970-80年代は不動産)とする人が肯定者も含め96%にも達し、下落後に回復を見込む割合も89年の35%から56%に上昇している。

P55 その自信の原因は、数値での説明より、周囲の成功例、投資しなかったことに対する後悔といった感情的なものが大きい。大半の投資家が市場に期待する利回りは極端に高くはないが、強気な市場が続いているにもかかわらず、89年に比べて同程度の期待が寄せられている。専門家の計算はあまりあてにされない。投資決定の際に、投資家がどんな感情を抱いているかが強気市場を齎す最大の要因の一つ、同時に投資家の感情は市場の上昇傾向が与える心理的影響によって増幅される。また、市場に対する世間の関心は時間と共に変化する。1920年代を通じて株式市場に関する記事の比率は4倍に増大したし、70年以降の投資クラブの数は株価推移と一致している。スタットマンとソーリーは株式市場での利回りの上昇が取引量に持続的な影響を齎すのは投資家の自信に影響を齎すからと結論づけた。

P71 フィードバック・ループ理論では、最初の株価上昇が、さらなる株価上昇を引き起こす。これの説明としては、過去の上昇が将来の上昇の期待を生む「適応的期待」、「投資家の自信」、消費水準の適応が遅れる為利益をより高いリスクのものに再投資する「習慣形成理論」などがある。何れにしろ、現在のバブルは、一般の受け止め方が「今、一時的なバブルがある」と考え暫くはその流れに乗りたいと望んでいるから存在するのかもしれない。

P76 現在は1920のポンジー詐欺にも等しいフィードバック・ループが自然発生しているのが実状。前章に述べた熱狂の根本的な要因は数多く存在し、それがフィードバック・ループや投機バブルによって増幅される可能性がある。

2部 株式市場を動かす文化的要因

第4章           ニュース・メディアの影響

P84 投機バブルの歴史は、新聞の登場と同時に始まったといえる。メディアには市場についての報道は沢山あるが、現状に就いて考え抜かれた解釈が明らかに不足している。

P90 1950-66の間に世界的な大事件(NYTimesの活字の大きさで)が起きた432日の内、株価の大幅な上昇18%、下落13%に過ぎない。危機(5日以上の大見出し)の例は少ないが、42%で大きな変動があった。89/10の暴落後のアンケート調査を見ても、「投資家の行動に対する解釈」としてのニュースに強く反応していることが観察され、下落が下落を呼ぶフイードバック効果を持続させた。

P95 ニュースの影響は時間差を伴って現われ、「人々の関心の連なり」が切っ掛けとなる。阪神震災に伴う株価下落が投資家の「関心のカスケード」を促進し、全世界で下落したのが好例。

P98 1929年の大暴落時の報道を調べても、切っ掛けになるような大ニュースはなく、株価の変動によるフィードバック効果や、市場に対する大衆の関心が次々に高まっていく「関心のカスケード」を介して進行する「ネガティブ・バブル」といえる。

P105 87/10の暴落直後のアンケート調査で、掲出したすべてのニュースが株式市場への評価と関連があったとされたが、最も高い評価を得たものは「過去の株価下落そのもの」に関するニュースだった(当日のWSJ20年代と80年代の株価推移など)。また、株価下落の理論に就いては、フアンダメンタルズに基づく理論より投資家の心理に基づく方が選択されている。ポートフォリオ・インシュアランスの対応売りを問題にする向きもあったが、ツールの使用を決め、有効性を判断するのは飽くまで人間。

P115 メディアは興味深いニュースを生み出そうとする努力を通じて、投機的な価格変動を増殖させる効果を発揮する。また、過去の株価変動とニュースを結び付けて、過去の変動が更なる変動を呼ぶフィードバックを更に強化する場合がある。

 

 

第5章           「新時代」の経済思考

P119 経済に関する表現として「新時代」という言葉が用いられるようになったのは、すべて90年代に株式市場が大きく成長してから。従って、株式市場が「新時代」理論に反応していると解釈されるが、実際には市場が「新時代」理論を「創り出している」事が多いように見える。過去の例を見ると、

P121 1901年は、電気、鉄道、通信の勃興期で、「楽観主義の時代」「自信の時代」「うぬぼれの時代」といわれた。又、企業統合による利益共同体論、安定株主の株価下支え効果が喧伝されたが、反トラスト法、パニック売りで何れも脆さを晒すこととなった。

P126 1920年代は、自動車、電気機器の大衆化の時代で、経済「新時代」宣言が数多く出た。また、株ブームを解釈・正当化する書籍への需要が増大した。ダイス、フィッシャーなど。

P131 1950-60年代も楽観主義の時代。テレビの普及。加えて、繁栄と市場高騰の原動力としてベビーブーム。「ケネディ市場」ともいわれる。

P137 90年代、マンデルの「新時代」の正当化・・グローバリゼーション、ハイテク産業の好景気、インフレ緩和、金利低下、企業収益の増大。ブートルは「インフレの時代」の終了を主張。しかし、’01’29のような楽観的な誇張は無くなった。

P140 「新時代」の後、1920年代には鉄道や海運業者に対する強い風当たり、’30年代の経済システムへの自信喪失・共産主義への傾斜、’80年代の対日敗北論等が支配することになった。

第6章           世界的な「新時代」思考バブル

P151 世界の株価高騰・下落の例:フィリッピン(’85、長い下落の後高騰)、台湾(’86、短期間の上昇・下落)、ベネズエラ(’90、石油危機による短期の急騰)、ペルー(’92、経済回復で短期に上昇・・最もバブルと縁遠い)、インド(’91、規制緩和と外資歓迎を受けて短期に高騰)、イタリア(’85、経済安定以外特に理由無く単なる熱狂?)。

P157 強気市場は熱狂とは無関係な具体的事件、金融危機で終わることが多い。’94のメキシコ、’97,8のアジア経済危機(株価は’96/12のピーク以来下落しつつはあったが)。

P160 これらのデータはデボンドとセイラーが発見した「長期にわたって好調な株価変動が観測される場合、その後同じ長さの期間不振に陥る傾向が強く、逆の場合逆になる」が正しいことを証明している。但し、資本の移動が自由化されるのに伴いこれらの変動は将来的に弱まっていく可能性は高い。

3部 株式市場を動かす心理的要因

第7章           株式市場の心理的な「アンカー」

P165 心理学研究によれば、市場における「アンカー」の存在を示唆するような人間行動のパターンが見受けられる。「アンカー」には、それ自体が市場の適性水準を示す指標となる「量的なアンカー」と人々に株を買う気にさせる理由の強さを決定する「モラル・アンカー」の二つがある。「量的なアンカー」に就いて言えば、株価水準に就いて判断する場合、記憶にある最も新しい株価、ダウ平均などの指標が最近示した区切りのいい数字などがアンカーとなりやすい。同じ国籍の企業同志、不動産投資信託と株価推移など類推されやすい数字も同様。「モラル・アンカー」は、量的な次元を伴わない「物語」を消費に回せる金融資産の量と比較する。ギャンブルの魅力もここにあり「確率」や「可能性」より、「幸運」や「ツキ」が重視される。従業員が自社株を買う傾向が強いことも指摘されている。株で財を成した人々は資産を消費する為に株を現金化し市場を動揺させたりしないといったエピソードも強気市場維持の「モラル・アンカー」となっている。

P172 アンカーの市場における意義を判断する場合、人間は自分の信念に「過剰な自信」を抱く傾向があることを覚えておく必要がある。これは、後知恵という歪みにも関係する。また、投機的市場との関係で言えば自分の力で確率を有利に変更出来るといった「魔術的思考」が原因(尤も、これは米国人に多い性格で日本人の集団決定優先と対比する社会心理実験の結果もある)。今一つの側面として、不確実な状況下で判断を下す時、人は馴染み深いパターンを探して、将来も過去のそれと似るに違いないと決め付ける傾向がある(「代表性の経験則」)。

P177 これらに基づき判断される直感的な感覚は市場崩壊の流れの中で非常に重要、下落を食い止めるアンカーを設定するのはこうした直感的な判断である。しかし、アンカーが宙をさまようこともある。ある出来事から導かれるであろう基本的結論を十分考えることが出来ない(「非結果論的推論」)ことがある(期末試験と旅行計画の例)。株価変動が実際に起きてからでないと、自分の感情・傾向を発見できない。

第8章           群集行動と思考の伝染

P180 人間社会の基本的事実の一つに、「定期的にコミュニケーションを取り合っている人々は似たような考え方をする」というものがある。心理実験でも、グループの多数の意見に左右される判断を下しがちだし、「権威」の影響も大きい。これを自信過剰の理論と併せると、意見形成の際には権威者の判断を尊重し、形成された意見に対しては自信過剰の状態になる。

P184 完璧に合理的な人でも、群集行動に身を投じる場合がある。個人としては合理的であっても、厳密に定義すれば不合理な集団行動を生み出してしまう。こうした群集行動は、「情報カスケード」によって発生するといわれている。これは「本当の基本的価値についての情報が提供・評価されていない」ことに関する理論。抽象的な情報や定期刊行物・新聞を経由したものは直接の対人コミュニケーションに比べ伝わりにくい。口コミによる伝播は公衆医学で言う感染率と除去率に左右され、除去率ゼロなら感染者はロジスチック・カーヴを描き、除去率がゼロより大で感染率より低ければ釣り鐘状曲線、感染率より高ければ蔓延しない。現実にはこれほど厳密に観察されないのは伝達エラーが発生するからだが、情報の伝播力の変化に就いて感染率、除去率の変化という観点から捉えることは有効。

P196 ある意見の伝播が急速に進行するのは、伝播対象が既に心に内在しているから。このため、事実に反する風説が急速に広まることもある。逆に、関心の外にある現象は看過されがちである。したがって、人間はある行動の原因を上手く説明できないことが多く、関心の変化を素早く反映する投機的資産の価格変動に就いて理由を説明するのも難しい。

第4部           「熱狂」は合理的なものか?

第9章           効率的市場、ランダム・ウォーク、バブル

P204 「効率的市場仮説」では、すべての金融商品の価格は、常に公開されたすべての情報を正確に反映しており、株価は多くの場合、時間の経過と共にランダム・ウォークをたどるとする。しかし、日々の株価変動の予測は困難だと主張する以上いかなる変動も予測できないことになってしまう。また、効率的市場仮説は、その根底において、能力の違いは投資実績の違いを生まないと考えている。ただ、「優秀な人ほど大きな利益を上げる」という有力な証拠が見つからないのは、投資家の優秀さを測定する方法が無いからだとも言える。

P209 1997年に設立され年商30百万ドルのイートイの株式時価総額80億ドルに対して、年商112億ドルのトイザラスが60億ドルというのは、過大評価を防ぐ勢力が市場に存在しないことを示しており、「効率的市場」に対する反証となる。シーゲルのNifty50についての、ガーバーのチューリップバブルについての肯定説の誤り。

P214 バスが1977に発見した株価収益率の高い企業は、その後あまり芳しくない推移を示す傾向があることを受けて、「バリュー(値頃株)投資」が盛んになったが、これは飽くまで個別の株式が対象で市場全体が過大評価されている時に手を引く訳ではない。

P216 株価変動は企業収益の変化に反応するとの意見もあるが、20世紀の3大ピークを見ても、’20-29年は共に上昇したが、’50年代、’82-99の企業収益はそれほど増加していない。

P218 また、株価の変動は配当の変化と密接には連動していない。通常の株価上昇トレンド以上のペースで上昇した例のうち、その後の配当の推移によって正当化できる例は一つも無い(’81の論文、その後論争)。配当は着実な成長路線に沿っている。厳密に言えば正当化される部分も少しあるが、キャンベルと筆者は米国株式市場の年間利回りについての変動のうち、27%は将来の配当に対する情報で正当化されると推測した。

第10章       投資家は市場から何を学んだか

P228 株式市場の熱狂を正当化する今一つの主張、「株式市場の長期的価値は従来の指標が示唆する適正価値より大きい」。投資家の学習効果に依る所大で、スミスは保有期間が長期に亘れば常に株式の方が債券より優秀な実績と。機関投資家にもこの認識は広く受け入れられているが、1831-61では逆、20世紀でも10年、20年単位で見ると反証は幾つもある。しかも、米国以外の株価上昇率は極端に低い(1926-9639ヵ国0.8%、米国4.3%)。現在の高い株価収益率とかってないほどの株価水準の上昇を考えれば、将来は確実に過去と違うものになる。

P233 株式の長期保有メリットの享有に就いてはミューチュアル・ファンドが果たした役割が大きいとされるが、現実に成績の優れたミューチュアル・ファンドを上手く選択できるという根拠はほんの僅かしかないから投資家が学んだ内容の実現の可能性は低い。

 

第5部           行動への提言

第11章       自由社会の投機的な市場変動

P248 株式市場の高水準を促進した12の要因のうち21世紀最初の数年に限れば、更に強まりそうなものが2(インターネットブームと株取引機会の増大)、弱まりそうが2つ(ベビーブームと他国への勝利意識)、それ以外は同水準にとどまる。従って促進要因が更に強化されない限り、現在市場水準の維持は難しくなる。加えて新要因についての議論はなく、逆に消費者需要の低迷、新しい開発機会の欠落、労働運動の復興、など企業収益にはマイナスの要因は山積している。これらは、従業員の志気やロイヤルティ、投資に参加している大衆間の不公平感に関連している。フェアの試算によるとGDPに占める企業収益は2010には12%以上と過去最高の2倍。また、米国やその強力な自由企業体制に対する外国の反感も高まっている。環境問題も収益の制約要因となる。

P254 今やるべき事は、米国株の保有を減らすこと。株式市場の楽観主義は個人貯蓄率ゼロに端的に表れている。いずれ株式時価の下落を相殺する貌で個人貯蓄を増大させる必要がある。また、同じ理由で株式投資をしている大学や財団は配当性向を下げるべき。確定拠出型年金への転換も年金生活者の生活水準に対する集団責任感覚を喪失させる点で問題だが、同時に運用の株式偏重を是正すべき。

P264 金融政策の引き締めによって株式市場バブルが崩壊する例、1929/2、日本の’89/5-8。金利の変更は経済全体に影響を及ぼす。バブルの認識が定着していない段階では、小刻みな金利引上げということも可能だが、投機抑制が目的であることを公表すべき。一般的には金融政策をバブル対策に利用すべきではない。

P266 市場の行き過ぎに警告を発するのはオピニオンリーダー達の役割。しかしたいした効果はない。1907のモルガンとロックフェラー、’65のマーチン、’96のグリーンスパン。

P268 市場閉鎖や値幅制限等の介入やトービンが短期取引抑制の為提案した外為取引き課税などあり、特殊な状況下では効果的に見えることもあるが、投機の持つ資源配分機能をも削ぐことになり、解決策としてあまり優先すべきではない。

P271 むしろ、市場を拡大して多くの人が取り引きできるようにすることが、長期的な経済の安定性という観点からは好ましい。’89の日本でのアンケート調査では、翌年の日経平均は日本の機関投資家が+9.5%としたのに、米国は-7.7%と見ていた。また、ブレナンは年間配当総額を対象とする「S&P500ストリップス」を提唱しファンダメンタルズに関心を集中させようとしている。

P275 適切なリスク管理を推進するには、より純然たる多角化を推奨する。真の多角化とは、専門家のアドバイスを得て自分達が抱えているリスクを相殺する(ヘッジング)ことだ。


古野のコメント

1.本書は、株式バブルに影響を与えた要因のうち、意識的にファンダメンタルズ以外の部分に焦

点を当て、その構造的、文化的、心理的側面を分析すると共に、効率的市場仮説のバブルの説明に対する不適切さを指摘している。

2.バブルの定義に就いては、株価収益率(インフレ調整後の実質SP複合株価指数/

実質SP複合企業収益の過去10年の移動平均)で見て(P6)、長期トレンドから大きく乖離している1901’29’662000をバブル発生としている。数学的な回析でなく、歴史の流れの中でバブルを捉えようとする見方は説得力がある。反面、歴史は繰り返すのか、「新時代論」にも耳を傾ける必要があるのではないかという批判もある。

3.株価高騰を齎した12の要因(P18)に就いては、挙げられるだけ挙げたとの感あり。このうち我が国の平成バブルにも該当するものは、A経済的勝者意識、Bビジネス的成功を尊重する文化、I低インフレ率程度か。アンケート調査で意識を探る手法は参考になるが、ブームと物質主義的価値観、経済ニュースメディアの発達、アナリストの楽観的予測など何れもどちらが原因とも結果とも言いがたいものがあるのではないか。何れにしろ、日銀論文は平成バブルの要因として金融政策、金融環境、規制の未整備などの政策・制度的枠組み主体の指摘(勝者意識だけは含まれるが)をしたのとは大きな違いがある。分析視点の違いからくるものか?

4.フィードバック・ループ理論(P71)は、バブルの広がりを説明するツールとして有効。反復しつつ増幅されていくプロセスは日本も同様。また、今バブルにある事が分かっていても、流れに乗ろうとする心理は、日本の土地バブルにおける地主、行政当局と同様ではないか。

5.一片のマスコミ報道が株価に変動を齎すのではなく、記事の積み重ね、過去との比較記事など「関心のカスケード」(P95)を醸成するのが原因。ここでは、ネガティヴな現象に就いてであるが、ポジティヴな面にもあてはまる。日本でも同様か?

6.「魔術的思考」による「自信過剰」(P172)については、米国人に固有のものとも考えられる。同じ確率の試行でも米国人の男性は自分自身の判断による方が、日本人男性は共同判断による方がより確率が高いと考えるという心理学実験の結果もある。日本の株式バブルでは、個人投資より、投資信託、特金を通じた法人投資が多かった。因みに、’89時点での株式保有は、米国では個人66%、金融機関27%、日本では、個人23%、法人70%

7.「効率的市場仮説」批判(P204)に就いて。バブルはファンダメンタルズ抜きでも論じ切れないのではないか?米国株市場の年間利回り変動の説明要因の試算(上述)はその一例。

8.バブル対策としての金融引締めは、経済全体に悪影響を与える為、採るべきでない(P264)。直接的な規制策も出来る限り避けるべきで、むしろ市場拡大により需給調整をスムーズに行えるようにすることが大切。この例として、’89の日本市場についてのアンケート調査で、日本の機関投資家は翌年も9.5%の上昇を予想したのに対し、米国の機関投資家は7.7%の下落と読んだとしている。しかし、「根拠なき熱狂」発言以来3年間金融引き締め政策を発動せず過剰通貨供給が容認されてきたことが正当化されるのか?同様なことは日本の土地バブルに就いても、1987に一部の経済学者の間で需給対策(主として供給面)を中心とする解決策が提案されつつも、政策的には無視された事と同じで、政策判断とのギャップがいかにして生ずるのか?

9.確定支給型年金から確定拠出型年金への移行(P258)につれて、株式バブルの運用に与える影響が大きくなるとの問題意識は納得感がある。しかし、著者も完全移行に就いては、集団責任感覚の喪失という点で疑問を感じているが、これは要因Bの個人主義の確立とも関係する歴史的な流れの反映でもある。ズッカーの指摘に依れば米国における信頼関係は19世紀中頃のprocess-based trustから characteristic-based trust をへて20世紀前半のinstitutional-based trustへと変化していったといわれ、これら社会意識の変化でバブル発生の頻度、規模がどう影響を受けるのかが問題。

10.入手しうる一般の書評では、タイミングもあり株式投資家への警告としての受け止め方、悲観的すぎる、将来のことは分からないとの見方、債券投資との比較の問題など、実践的なものが大半で、個人投資家の株式投資に対するコミットの広さを改めて痛感する。